ディズニーのマニュアル制作術

急激な組織拡大あるあるとして、
  • ミッション・ビジョン・バリューが浸透しない
  • 提供サービスの品質にばらつきが生まれる
  • 組織に一体感がない
といった課題が挙げられます。
 
これらの課題を未然に防ぐため、HeaRでは様々な組織開発に取り組んでいます。 今回は毎年数千人の採用活動を行いながら、優れたサービス提供を行っているディズニーの組織開発やマニュアルづくりについて学んでみました。
 
参考にした書籍は以下の3冊です。組織開発や仕組みづくりを検討中の方の参考になれば幸いです!
 

 

1. 毎年1万人を採用するディズニー

ディズニーの採用方針について紹介していきます。 「提供サービスの質」という観点でよくリッツカールトンと比較されるそうです。
 
リッツカールトンという有名な高級ホテルがあります。お客さまに素晴らしいサービスを提供することでよく知られています。この会社の従業員採用の特長は、会社の考え方に同調できない人はもちろん、サービス業に向いていないと判断した人は、絶対に採用しないということです。アルバイトでも、徹底的に選抜が行われます。つまり、自社の仕事に対して素養・素質があると見込まれる人しか採用しません。
 
一方でディズニーは原則「ウェルカム」の姿勢でどんどん採用していきます。 本を読んだ限り年間約1万人の採用でした。規模がすごい。
 
ディズニーは「ウエルカム」、つまりアルバイト採用に応募してきた人は、基本的に全員採用する方向で対応しています。年によって異なりますが、1年間で、約1万8000人いるアルバイトのうち半分近くの9,000人くらいが退職していきます。そのため、1年に3回くらい3,000人近くのアルバイトを採用しなくてはなりません。もちろん、採用人数には限りがあります。ですから、すべての人を採用することはできません。しかし、基本的には「ウエルカム」というのがディズニーの姿勢です。
 
これだけの人数の採用や人の入れ替わりが起きれば、以下のような問題が発生するリスクが上がります。
  • ミッション・ビジョン・バリューが浸透しない
  • 提供サービスの品質にばらつきが生まれる
  • 組織に一体感がない
 
しかし従業員の多くがミッションを信じ、高い品質のサービスを提供しています。 ディズニーの凄さには秘密がありました。
 
それが「マニュアル」だったのです。 以降はディズニーのマニュアルについて紹介していきます。
 

2. マニュアルの存在意義

会社によってマニュアルの存在意義は異なります。 場合によってはマニュアルの役割を言語化せずに作っている会社もあると思います。
 
ディズニーは仕事を2種類に分けて考えていました。 「Duty(作業)」と「Mission(役割)」の2つです。
 
ウォルトは、仕事を「Duty(作業)」 と「Mission(役割)」 の2種類に分けて考えていました。「Duty(作業)」とは、ディズニーランドで言えば、清掃作業や、レストランや店舗、各アトラクションでゲストを案内するといった、「やるべきこと・作業」のことです。これが仕事の6割を占めています。残り4割の「Mission(役割)」とは、ディズニーの理念である「Give happiness(ギブ・ハピネス)」=「ゲストに幸せを提供する」ことを実現するということです。「役割」「仕事の本質」「本来の仕事」などと言い換えてもいいでしょう。
 
そしてディズニーはマニュアルを「Mission(役割)を実現するための時間的余裕・精神的余裕を生み出すための道具」と定義しています。
 
ディズニーのマニュアルは、Duty(作業)が簡単に進むことで、考えることなくショーの準備が整い、キャストは、本来の仕事であるMission(役割)の実現に力を注ぐことができる。 言わば、Duty(作業)を管理するマニュアルは、 Mission(役割)というディズニーの理念を実現する余裕を生み出すための道具なのです。
 
一方で、キャストはDuty(作業)において独創は許されません。 ミッションを達成するのはキャストの独創ですが、相反する要素を結びつけているのがマニュアルという訳です。
 
この一節を読んで、HeaRでも「青春の大人を増やす(ミッション)」ための時間的余裕・精神的余裕を生み出すために仕組みづくりを行っていこうと思いました。
 
また、マニュアルといえば「個人向けのドキュメント」の印象が強いと思います。 ディズニーはマニュアルを個人向けではなく、チーム向けのものとして作っています。
 
一般企業でのマニュアルの定義と、ディズニーでのマニュアルの定義。両者の最大の違いは、 マニュアルが個人向けに作られているかどうかにあります。一般企業で使われているマニュアルのほとんどは、個人の力を引き上げるために作られています。一方、ディズニーのマニュアルは現場のチーム全体の機能を押し上げることを目的に作られているのです。
 
ここからはディズニーのマニュアルのつくりかたを紹介していきます。
 

3. ディズニーのマニュアルづくりの4つのポイント

1. 優先順位が明確

ディズニーでは行動指針として
  • 安全性(Safety)
  • 礼儀正しさ(Courtesy)
  • ショー(Show)
  • 効率(Efficiency)
の4つを設けています。(4つをまとめて「SCSE」と呼んでいるそうです)
 
この4つには明確な優先順位があり、上から順に「安全性」→「礼儀正しさ」→「ショー」→「効率」の順番です。楽しんでもらう以前に来場客の安全が第一、といった考えでしょう。
 
優先順位を明記したマニュアルを作成することで、
  • マニュアルに対する理解が速くなる・深くなる
  • 想定外の事態に遭遇した際も、各自で判断し行動できる
といったメリットがあります。
 

2. 「何を」「いつ」「どのように」やるかが明確

伝わらないマニュアルの共通点とは「何を」「いつ」「どのように」やるかが明確ではないもの、です。 順番と行うタイミングまでがルール化されていれば、誰でも取り組めるようになります。
 
洗面所の清掃が例として挙げられていました。
🙅‍♀️
【悪い例】 1.洗面所のまわりにあるゴミをゴミ箱に入れる 2.シンク全体を拭き上げる 3.鏡を拭き上げる 4.ペーパーナプキンを補充する
 
この場合、手順や仕上がりレベルが曖昧なため高品質なサービス提供ができないと考えます。 望ましい例を見てみましょう。
 
🙆‍♂️
【良い例】 1.シンクのまわりに落ちているゴミをゴミ箱に入れる 2.洗剤とスポンジを使い、シンクの内側の汚れをすべて取り除く 3.水滴が垂れないよう固く絞った布巾の50%を使い、シンクの内側を端から端まで拭き上げる 4.固く絞った布巾の残り50%を使って、シンクの外側を端から端まで拭き上げる 5.乾いた布巾の50%を使い、シンク全体に残った水滴をすべて拭き取る 6.乾いた布巾の残り50%を使い、鏡と蛇口についた水垢・水滴をすべて拭き取る 7.ペーパーナプキンが3分の1以下に減っていたら、残っていても補充する
 

3. 作業を分解し、最小限の項目だけを書き込む

マニュアル作成となると張り切って多くのことを盛り込みたくなりますが、一度に多くのことを覚えることは難しいため最小限の項目にとどめましょう。
 
あれもこれもと欲張らず、チーム全員にこの程度だけは覚えておいてほしいという最小限の項目数に絞り込むこと。理想は10項目未満です。10も20も続く項目の羅列は、絶対に覚えられません。
 
また具体的なスキルは省き、手順のみの記載をお勧めしていました。
 
書き出した項目についての具体的なスキル、テクニックについて詰め込むことは避け、手順を書くのみに限ること。また、その手順を伝える言葉は、 マニュアルを読む人たちの注意を引くようなキーワードになっているとより効果的です。
 

4. メンター制度

メンター制度を通して先輩キャスト(トレーナー)が後輩キャストにマニュアルを実践しながら教えるそうです。レクチャー時も全力で行っているそうですが、その背景にある考え方こそが一番素敵だなと思いました。
 
この背景にあるのは、「人は、自分が扱われたように人を扱う」 という考え方です。このような手厚い出迎えをすることで先輩キャストは、「あなたたちがオンステージにデビューしたときも、こんなふうにゲストをお迎えしてもらいたい」という暗黙のメッセージを新人キャストの心に訴えかけているのです。
 
トレーナー役になったからといって、昇給に結びつくわけではないそうです。 そんななかでもトレーナーになりたい人は後を経たないとか。トレーナー選びにも秘訣がありました。
 
「ほかのキャストにいつもしっかり教えてあげているな、楽しそうだな」 と思うキャストがいると、後日そのキャストと面談をします。そのとき、そのキャストに問いかけるのです。 「あなたは、 人を育てることに喜びを感じますか」そして、「トレーナーをやってみませんか」と本人がトレーナーになる意思があるかどうかを確認します。「やってみたい」と本人が答えればトレーナー候補としてトレーナーになるための研修、トレーニングを受け、はじめて正式にトレーナーとしてデビューします。
 

おまけ:感想

ディズニー関連の書籍を3冊読んで、すっかりディズニーのファンになりました。 数年ぶりに行ってみようかな🐹